4月号(vol.69)

『致知』2009年10月号から引用。
 
“山より大きな猪はいない
      海より大きな鯨はいない”

これは、タビオという会社の会長である越智直正氏の文章である(下記に引用する)。
 
13年に及んだ丁稚奉公は過酷を極めましたが、古典とともに、あの厳しい体験がなければ今の私はないと断言できます。
六畳一間に六人で住まわされ、毎朝5時55分の起床から深夜まで、休みもほとんどなく働きずくめに働きました。
大将には朝から晩まで「アホ」「ボケ」と罵られ、とことんしごかれました。
何かへまをしでかそうものなら、「足を踏んばれ。歯を食いしばれ。」と命じられ、火花が散るほど強烈なビンタを見舞われました。まるで軍隊のようでした。
おまけに私は、四国出身で言葉も習慣も違うため、仲間からは格好のいじめ対象になりました。
問題が起これば、何でも私に責任を押し付けてくる。
一階で起きた失敗を、二階で作業している私のせいにされるようなひどい有り様で、一人で作業するときには
「わしは男だ、わしは男だ」と繰り返して、溢れてくる涙を必死で抑えようとしたものです。
一度その辛い思いを手紙にしたため、兄に送ったことがありました。
自分はこの先も、器用に立ち回る都会の連中に交じってやっていける自信がありません。
そういう趣旨のことを切々と綴ったところ、すぐに兄から返事が来ました。封筒の中には二枚の便箋にたった二行、「山より大きな猪はいない 海より大きな鯨はいない」とありました。
きっと兄は間違って書き送ったに違いない。最初はそう思いました。
しかし読み返すうちに、それが兄からの戒めであることが分かったのです。
いくらガタガタと泣き言を書き連ねても、実際はおまえが言うほどのことはない、黙って自分の職務を全うせよ、と兄は説いていたのです。
 
今の時代、上司に少々叱責とは到底呼べないくらいの注意を受けても翌日には「辞めます」という時代。
知人の店長から聞いた話では「昼休み入りまーす」、と言ったきり午後になっても姿を見せず翌日も出社せず、見るとロッカーはもぬけの殻なんてこともあると嘆いていた。
前述した引用文の中にもあるが、昨今は法律を振りかざせば刑事事件にもなりうるそんな時代、軍隊的な規律が大切だ等と言っているのではない。
 
しかし、“怒りやエネルギーの矛先” “努力や辛抱のしどころ”がほぼほぼ間違っている日本人が増えている様に思えてならない。
辛いこともあるだろうし、嫌になることもあるはず。時には逃げ出したくなることもあるだろう。
しかし、この道が自分の道と考える「心術」があれば、更には前述の
「山より大きな猪はいない 海より大きな鯨はいない」と考えられる「心術」を持ち合わせていれば自ずと何をしなければならないか見えてくるはず。
 
しかし若者の中にも骨のある女性がいる。7年前に出会った私の患者様である。
弱冠20歳。30歳までには自分の店を持ちたいと富山市内でも有名な店で修行をしていた。
彼女は私の所に手湿疹(手荒れ)で通院していたが、その手はかなり重症であった。私は診るなり職業をたずねた。彼女はその手で仕事を全うしていた。何の迷いもなかった。聞けば1日14~15時間は働いていると言っていた。
7年経っている今、彼女はどこまで立派になっているのか。お会いしてみたい。
先月号に書いた「知好楽」を実践している女性だった。
 
院長:拝